第1章 【assassinate.1】
「…あれ、早乙女…さん?」
……仕留め損ねた。
突如消えた姿を探して辺りをキョロキョロと見渡す男の様子を、私は屋上から眺めていた。
やがて諦めたかのようにその場を去っていく男の姿を見送ると、私を屋上へさらった張本人が口を開いた。
「あれほど人を殺すなと言ってるでしょうっ!!」
うるさいな。
眉間に皺を寄せた私を見てスーツ姿の男は大袈裟にため息を吐く。
「まだ殺してない。」
「“殺す”選択を即決するなって言ってんですよ。」
静かな怒りを含む声色に私はそれ以上は何も言わずに、早く下ろせと言わんばかりに彼の腕を叩いた。
彼は小脇に抱えていた私を地面に降ろしてから、乱れた前髪を後ろに撫で付けると殺人現場になり得た可能性があった場所を一瞥した。
…この男、相変わらず動きが早すぎる。
私がさっきまでいた場所からだいぶ離れた所に居たくせに、こちらの殺意を感じとって阻止したうえ、校舎の僅かな凹凸を使って屋上まで…。
しかも私を小脇に抱えたまま…。