第1章 【assassinate.1】
「…あんた、何者?」
「三廻部(みくるべ)ですよ。」
こちらの質問の意味を分かっている癖に、飄々と答えを返す男に少しの苛立ちを感じながらも私は更に言葉を投げかけた。
「私は組織でもトップクラスだった。」
「ええ、存じてますよ。…でも今は“早乙女澄香”で、私は貴方が問題を起こす前にそれを阻止する義務がありますので。」
「義務ってだけでこう何度も阻止されちゃあ、私の面目も丸潰れね。」
「……“暗殺者”の?」
わずかな沈黙。
2人の間を風がすり抜けていく。
お互いに視線をそらさずに相手との間合いを測るこの感じ…。
獲物と対峙してるみたいだ。
少し前の、私の日常だったあの世界のあの感覚。
死と隣り合わせで、そこに私の感情などなく、命令にしたがってただ命を奪い、その為だけに教育されてきた私の…私達の日常。
男は…三廻部は、静かにこちらを見つめている。
その瞳の奥が私の何を捉えているのかは分からなかった。