第1章 【assassinate.1】
「本気で私を殺せると思ってるんだ?」
静かな水面に石を投げ入れたような私の問いに、一瞬三廻部の瞳がわずかに揺れた気がする。
瞬間、ざわっと空気の流れが一変し、木がザワザワと葉を擦り合わせて音を立てた。
晴天だった空が薄暗くなって、鳥達がギャアギャアと騒ぐ声が耳に届く。
「殺せますよ、もちろん。」
三廻部の静かな答えが悪寒となって私の身体を走り抜けた。
私の本能が危険信号を鳴らしている。
この男は何者だ。
一般市民だと言うのには無理がある。
人間は修羅場を潜り抜け生き延びてきた者程、底が見えず、裏が見えず、一見でそれを見抜くのは難しいほど、世の中に擬態するのが上手くなる。
自分が世界の異物だと自覚しているからだ。
…私は今はその立場に居ない。
だから擬態する必要も無い。
そして私が今生きているのは……。
そこまで思考して頭を振る。
三廻部はずっと笑顔のままで私を見守っていた。