第23章 本音
ゆっくりとまるで時間を稼ぐかのように毛布から顔を出す。
彼女の瞳は光を灯していなかった。
人って本当に追い詰められると、瞳が死ぬって本当だったのね。
「廃マンションに行って、数体の低級呪霊を祓った。でも油断して最後の一匹に背後取られて、そしたら攻撃喰らって怪我した」
さっきまで怯えていたくせに、淡々と話すその落差に恐怖すら覚える。
今、の精神状態はどうなっているんだろう。
「じゃあ、この手首の痣は?」
「………」
「ウエストラインの指の痕みたいなやつは?」
「………………」
「答えないのはなんで?」
怪我人に、精神が揺らいでる人に、圧をかけまくる先生。
だけど、彼女はただ一点を見つめるだけで口を閉ざしてしまった。
静寂が訪れる。
これ以上何を聞いても応えてはくれなさそうな雰囲気だった。
その静寂を破ったのは、私だ。
「助けてって言ったの、覚えてる?」
何も言わなかったけど、かすかに指が動いたのを見た。
うっすらと記憶があるって言っていたから、覚えてるかどうか不安だったけど、今の反応見る限りでは覚えてるわね。
「あれは、なに。なにから助けて欲しかったの。教えて」
優しく彼女に語り掛ける。
彼女はだんまりを決め込むだけだ。
何も話したくないという意思の表れ。
だけど、私はアンタの口から真実を聞きたい。
アンタが今抱えている苦しみも悲しみも寂しさも怖さも隠した痛みも全部。
分かち合えなくたっていい。
ただ共有したい。
アンタのことを大好きだから。
だから、一緒に傷ついてあげる。
「、悪いけど私なんとなくもうわかってるのよ。あんたが誰にこんなことをされているのか。ここにいるみんなもわかってる。だから、もう嘘つく必要なんてないのよ」
その時、ぽたりと何かが落ちて毛布を濡らした。
光を失ったの目から、大粒の涙がいくつもいくつもとめどなくあふれ頬を伝い、顎の先で渋滞を起こして下へと落ちる。
それは紛れもない彼女の隠した本音と救いを求める救難信号だった。