第22章 黒閃
ぼんやりとする視界の中、俺の目に映ったのは小さな背中。
俺を護るように立つ夏油の背中が大きく見えた。
そして気が付いた。
彼女の口や鼻、先ほど転んで怪我をした個所から大量の血が噴き出ていることに。
「お、おい……」
声を掛けても夏油はただ特級を見つめ、君の悪い笑みを浮かべているだけ。
女のする顔じゃない。
だけど不思議なのは、特級が一歩もその場から動いていない事。
何もない場所を叩き続けるその様は異常だ。
夏油の新しい術式か何かだろうか。
そう思った時。
夏油が地面に倒れた。
限界を迎えた夏油の瞳は虚ろで、呪力がほとんど尽きてしまったせいで彼女の術式も解ける。
「ち、くしょ……」
身体を起こそうと力を入れるが、指一本動かないのか夏油は倒れたままだ。
……ここまでだな。
特級が夏油を殺す前に、俺が殺す。
その時はたぶん、俺も死んでいるだろうけど。
悪いな、夏油。
オマエを巻き込んじまって。
できればオマエだけでも逃がしてやりたっかたけど、ごめん。
「布瑠部―――」
奥の手を出そうとした時、夏油を目が合った。
顔だけを俺に向けて睨むその目が、あの時の五条先生と重なる。
【宝の持ち腐れだな】
【本気でやれ。もっと欲張れ】
【誰にも、負けないくらい強くなってやる】
思い出す言葉の数々。
強くなる……か。
死んだら、強くなれねえよなぁ。