第22章 黒閃
――伏黒恵side――
「はーい、また僕の勝ちー」
畳の上に転がるように倒れる俺の耳に五条先生の軽快な声が響く。
左手はポケットに入れたまま、右手だけで俺をのしやがった。
くそ……。
身体を起こし、乱れる息を整えるために大きく息を吸って吐く俺を、五条先生はサングラスをあげながらムカつく笑顔を張り付けて見ている。
「珍しいよね。恵が僕に稽古を頼むなんて。悠仁に追い越されて焦った?」
「まぁ。背に腹は代えられませんから」
「そんなに嫌?僕に頼るの」
できれば頼りたくはなかった。
だけど、俺のこのくだらないプライドが強くなりたいと思う俺の心を邪魔するなら、そんなプライドはいらない。
「恵はさぁ、実力もポテンシャルも悠仁やと遜色ないと思ってんだよね。後は意識の問題だと思うよ。恵、本気の出し方知らないでしょ」
「は?俺が本気でやってないって言うんですか」
口調が荒くなってしまったが、聞き捨てならなかった。
俺はいつだって本気で戦っているのに。
だけど五条先生は「やっていないではなくできていない」と言った。
「例えばさぁ、この前の野球。なんで、送りバントしたの」
野球……?
あぁ、交流会のか。
なんでって、2番バッターはそういう役割だからに決まってんだろ。