第3章 受胎
「はぁ……」
「どこ行くの?僕と勝負する?最近してなかったもんね」
「……いい。今日はなんか、疲れた。息抜きしてくる」
ベッドから立ち上がり私の肩を掴んでくる男の手を払いのけ、ハンカチで拭った。
後ろで何か文句を言う声が聞こえたけど、無視した。
つか早く部屋から出てけや。
心の中で悪態をついて、私は寮を出た。
久し振りに外に出た。
大きく伸びをすると骨の鳴る音がした。
息抜きと言ってもどこかに行くわけじゃない。
あまり買い物とか好きじゃないし。
適当に歩いて、校舎の中へと入る。
ここに入るのは初めてかもしれない。
いつも、寮の部屋か外で五条悟と戦ってるかのどれかだったから。
ぶらぶら歩いていると、とある教室で足を止めた。
その部屋にはグランドピアノが置いてあった。
音楽室、というにはグランドピアノしかないから違うと思うけど。
高専って表向きは宗教系の高校だとかあの男は抜かしてたけど、音楽の授業とかもあったりするんだろうか。
中へ入り、鍵盤蓋を開けた。
随分と長い間使われてないのか埃が溜まってる。
これだと音もダメかもしれないな、なんて思って鍵盤を叩くと、綺麗な音色が響いた。
「……調律されてる」
誰も使ってないのに調律だけはしてあるって、どっかの小学生探偵の事件かよ。
私は椅子に座り、指を滑らせるように音を鳴らした。
その音色に耳を傾ける。
久し振りにピアノ弾くな。
指、覚えてるといいんだけど。