第20章 幸福
今も昔も、僕は一人でなんだってできたしどこへだって行けた。
だけど傑と出会って、傑を失ってから、僕の中の空白は埋まらなかった。
初めから、そこがあいつの為に欠けていたみたいに。
正直、忘れたいと思った日もあった。
もう戻れないなら、いっそのこと全部忘れてしまって、笑おうと。
「でも、無理だった。僕は、アイツとしか笑えなかった。救いようのない夢物語だよ。夢なんて生やさしいものじゃない。そんな僕にアイツごときが幸せを見せられるわけがないんだよ」
だって僕は今もずっと夢を見続けているんだから。
叶いもしない夢を。
「それは……違うだろ」
自虐的な笑みを浮かべれば、の少し怒ったような声が僕の耳に届いた。
彼女を見れば、先ほどまで泣きそうだった顔が更に泣きそうになっている。
「お兄ちゃんとしか笑えないって、なんでそんな嘘つくんだよ。笑ってたじゃん。箱根の時、浴衣が着れない私を見て声上げて笑ったじゃん。笑えるのに、なんでそんな嘘つくんだよ。じゃあ、あれは偽物の笑顔だったってのか?」
「……偽物なんかじゃないよ。あれは最高におもしろかった」
「だったらなんで……」
「聞いて。確かに僕は傑と一緒じゃないと笑えなかった。でも、それは昔の話。今は君がいる」
「え……」
「が僕の前に現れてくれたおかげで、僕の中の埋まらなかった欠片が埋まったんだ」
「………」
「今も昔も僕はずっと幸せなんだ。それこそ夢の世界にいるみたいに」
これはもう告白に近いだろ。
好きだと言っているようなものだ。
だけど、きっとは気づかない。