第20章 幸福
「そう言うんじゃないから。何か僕に言いたいことがあってきたんでしょ。立ち話もなんだからさ」
「……」
僕の言葉に素直に従い、ベッドに腰かける。
僕との距離は結構離れている。
警戒されすぎじゃない、僕。
「で。僕に何の用?」
そう問いただせば、はちらちらと僕を見て小さな口を何度も開閉させる。
言いづらいことなのだろうか。
暫く沈黙が続いた後、漸くの口から言葉が漏れた。
「……あの時言った事は、本心か?」
「あの時って?」
「今が幸せだから、夢は見ないって……」
「ああ。あれね」
本心だよ、まごうことなく。
「どうしてそう思ったの?」
「……なんとなく」
純粋な瞳が僕を見つめる。
あの言葉に嘘偽りはない。
本当だ。
だけど、この瞳を前に、僕は僕の心の奥底にしまった"欲望"を言わざるを得なかった。
「あの言葉に、嘘はない。本当だよ」
「そうか……」
「ただ、一つだけ夢みたいなことを言うとしたら……」
そう、これはただの夢だ。
叶うはずもない、僕が望んだ夢物語。
「僕は、傑と一緒に笑っていたかった」
隣から息を呑む声が聞こえた。
静かに彼女を見れば今にも泣きそうな顔をしていて。
なんでオマエがそんな顔をするんだよ。
小さく背中を丸める彼女は、下を向いて唇を噛んでいた。
今にも消えてしまいそうな彼女の頭を優しく撫でる。