第19章 旅行
「返事、ちゃんと返してくれてありがとうな」
「でも結構待たせちゃったよな……」
「そんなことないけど。待ってる間もすげえ楽しかったし」
「え?そう、なの?」
「おう。だって、俺の事好きになってくれようと頑張ってたんだろ?」
「なっ……、なんで、それ……」
頬が熱くなった。
それを知っているのは、あの部屋にいた奴らだけなのに。
なんで、虎杖がそんなことを知っているんだ。
もしかして態度に出ていたとか。
いや、コイツはそんな些細なことに気づく程敏感な奴じゃないはずだ。
なのに、どうして……。
「実は昨日の夜さ、喉が渇いてジュース買いに廊下に出たんだよね。そしたら……」
「き、聞こえてたってのか?」
「うんっ」
カービィみたいな目をしてごまかそうとすんな。
ニコニコと笑う笑顔が眩しい。
「嬉しかった。が少しでも俺の事を意識してくれたんだと思ったら」
「………」
「俺今振られたけど、そう簡単に諦める事できないから、まだの事好きでいてもいい?」
「その聞き方はズルいだろ」
「へへっ」
「笑うな」
告白した者と告白された者同士だと言うのに、私達の間に気まずさなど一つもなくて、今まで通りのやり取りが逆に不自然に見えるほど、本当に何も変化などなかった。
たぶんそれは虎杖がそうさせてくれたからだと思う。
私が気を遣って、変にぎくしゃくしないようにと。
その優しさを好きになりたかったと心底思う。
「じゃあ、また明日」
「また明日な」
お互い手を振って、私は虎杖の部屋を後にした。
私達の今のこの関係に名前を付けるとしたらなんだろうか。
友達、と言えるのだろうか。
あやふやなこの関係を居心地いいと思うなんて。
虎杖の事をズルいって言ったけど、私も大概か。
そんなことを考えながら、私は自分の部屋へと帰った。