第19章 旅行
羽織っただけの状態で風呂を後にできる訳もなく。
頑張って一人で着ようと挑戦するも悪戦苦闘。
たぶん、10分くらい浴衣と格闘していた気がする。
すると湯船からあがった五条悟が私のその姿を見てゲラゲラと笑った。
「笑うな!!着れねえんだからさ……」
「ちょっと待って。着せてあげるから」
「……ん」
慣れた手つきで浴衣を着ていく五条悟。
禪院真希もそうだったけど、御三家の奴らは着慣れてんだな。
浴衣も着物も。
「、見すぎ」
「あ、ごめん……」
「なに、僕の裸に見惚れてた?」
「何言ってんだ。浴衣着慣れてんなって思っただけ」
「ああ、そういう……」
よく私も平常心を保ててるな。
何度でも言うけど。
浴衣を着終わった男は、私に手招きし従順な犬のように男の元へと行く。
浴衣を正すために手を離せば、私の裸は五条悟の目に映る。
心臓の音、こいつに聞こえてたりしてないだろうか。
私の耳にはうるさいくらい鳴り響いているから。
帯を結ぶために身体が密着する。
顔の横に五条悟の顔が近づいてきて、五条悟の匂いを感じて。
肌と肌が触れる体温も、息遣いも。
全てが近すぎて、全てが敏感になってしまう。
これ以上密着されたら私は死ぬだろう。
ぎゅっと目を瞑って頭の中で般若心経を唱えて落ち着かせようとするが、逆に意識して意味をなさなかった。
「、緊張してる?」
「してない……」
「心臓、速いよ」
くすくすと笑う五条悟。
わかっていてそんなことを言うんだから、性格悪い、まじで。
照れ隠しで殴ろうとしたが簡単にひょいと避けられた。
「はい、出来上がり~」
軽く手を叩く五条悟。
こいつの言う通り、浴衣は綺麗に着せられていた。
「朝ごはん、食べに行こうか」
手を差し出されたけど、私はそれを握らずに素通りし歩き出す。
後ろでは五条悟が笑っていたような気がしたけど、たぶん気のせいだと思う。