第19章 旅行
目の前にいたのは、中学時代の同級生だった。
「……皆川、斎藤……」
皆川と斎藤は手を繋いでいて、こいつら付き合ってんのかとかどうでもいい思考が脳をよぎった。
血の気が引くのが自分でもわかった。
私はこいつらから離れたくて、足を動かそうとした。
でも動かなくて、足に力が入らなくて。
蘇るのは、中学の嫌な思い出。
私をいじめて、犯罪者の妹だと罵って、全校中に吹いて回って、私を独りぼっちにして。
ぐっと両手を握りしめた。
「やっぱ夏油じゃん。偶然じゃない?久しぶり」
その口から零れる言葉は、泥のように汚く聞こえてしまう。
ノイズがかかったように、重たく冷たく、吐き気さえ覚えるほど。
「冬休み開けてから全然学校に来なかったから心配してたんだよ、皆」
と、嘘の言葉を吐く皆川。
お前のその猫撫で声がいつも耳障りだった。
甲高く鳴くのやめろ、発情期か、クソが。
「どこの高校行ってるの?ていうか高校行けてるの?」
くすくすと笑う皆川。
斎藤も斎藤で「やめろよ」とか言いながら笑ってんじゃん。
何がしてえんだ、お前ら。
「今ね、私達デートしてるんだぁ。羨ましい?ていうか一人で箱根来てるの?友達とかは……って、いるわけないか~」
「まぁ、犯罪者の身内じゃ友達出来るわけもねえもんな」
まるで、呪いだな。
悪びれることことなく誹謗中傷の言葉を吐いて。
そんな有象無象に乞う制止も否定もないまま、口を塞いでしまえば、言葉という概念は力を失くし概念もなくなる。
狗巻棘のように、呪言が私にあれば。
今すぐにでもこいつらを呪う事ができるのに。
だけどそんな力私にはない。
勿論、こいつらにも。
人を呪う力はない。
だけど、その口から生み出される言葉は、侮辱に満ちたそれらすべては、私にとっては呪いそのものだ。