第19章 旅行
「うわぁ……」
思わず声を上げてしまった。
というのも内装があまりにも美しすぎて。
150枚以上のガラスパネルが張り巡らされた空間はまさに「美」そのもの。
しかも車内にあるほとんどのものは、現役時代から使われていたものらしい。
豪華な布張りの椅子も、かつてはオリエント急行で使われていたものを使用しているらしく、私のテンションは上がっていた。
100年前の美しい空間をこの目で見られるなんて。
「タイムスリップしたみたい」
「ぶっ!!」
「おい、誰だ笑ったの」
「いや、すまん。だってオマエ、子供みたいなこと言うから……」
口元を抑えて笑いをこらえる伏黒だったが、その肩は小刻みに震えている。
そう思ったんだから仕方ないだろ。
席に座り、予約したときに事前に頼んでいたティーセットが運ばれてきた。
専属クルーにお給士され優雅なティータイムが始まった。
この季節はシフォンケーキらしい。
一口、口の中に放り込めばそのふわふわの触感に言葉を失くした。
「うっま……」
「すげえふわふわ……」
「ツナ~」
「紅茶にすればよかったな」
優雅な時間をゆっくりと過ごして。
ああ、この空間にずっと居たいと思ってしまう。
だけど、楽しい時間というものはあっという間に過ぎてしまい、私たちは現実の世界へと戻された。
カフェを後にした後、バス停へと戻る。
というのも一度箱根湯本駅まで戻って、足湯でもしようかという話になったからだ。
ミュージアムに行きたかったが、それはまた今度行こう。
バスに乗って揺られること30分。
隣に座っていた伏黒が私の肩に頭を乗せてきた。
腹いっぱいで眠ってしまったらしい。
さっき私のこと子供っぽいとか言っといて、お前だって子供じゃないか。
すやすやと眠る伏黒。
伏せられた瞳から伸びるまつ毛の長さに嫉妬したのは内緒だ。