第19章 旅行
閑静な中心街に立つ箱根ラリック美術館。
その敷地内にカフェ"ル・トラン"やミュージアムなども併設されている。
フランスの宝飾デザイナーである、ルネ・ラリックはたくさんの作品を手掛けた上にオリエント急行の室内内装を担当したりと、その生涯をを通して活躍をしたらしい。
この美術館では、ルネ・ラリックの生涯とキラキラと輝くドラマチックな体験ができると、パンフレットに書いてあった。
カフェに向かう途中、ミュージアムとカフェを繋ぐ遊歩道には、ハスの池が広がっていた。
「モネの絵みたい」
「確かにな」
「夏油って美術とか芸術に詳しいけど、好きなのか?」
「好き……って言うほどでもないけど。でも嫌いじゃない。私の知らない世界を見てるみたいだし、同じ景色を見てるけど、こういう見え方してるんだってそう言う風に思える」
「それを世間一般では好きっていうんだぞ」
「しゃけ!!」
くすくすと笑うパンダと狗巻棘。
好き?
別にそこまで美術や芸術に詳しいわけでもないのに。
好きなら、本当に好きならもっと詳しいはずでしょ。
なのに、「いいかもしれない」というあやふやな感情で好きだなんて言ったら、本気で好きな人に失礼じゃないか。
「あやふやでいいんじゃね?好きなことには変わりねえんだから」
「そういうもん?」
「そういうもん。俺もそこまで野球は詳しくねえけど、野球好きだし」
「……そっか」
好きって、いろんな形があるんだな。
私は一つの形しか知らないから、そういう見方しかできないだけなのかもしれない。