第18章 術式
買い物を終えて、店を出る頃には19時を回っていた。
早く帰って明日の支度をしなくちゃ。
頭の中で時間の計算をしていたら、が「あ」と声をだした。
「あのさ、野薔薇」
「なによ」
「明日のこと、何か聞いてる?」
明日の事……?
ああ、を待っている間に真希さんから電話があったアレのことか。
「虎杖や伏黒も来るって話?真希さんから聞いたわよ」
「あ、なら良かった」
一安心したように息を吐く。
が先生と勝負をして負けたら先生も一緒に来ると言うなんとも無謀な約束をしたということは、真希さんから全部聞いけど……。
「にしても、先生に勝てるわけないのにどうしてそんな約束したのよ」
「違う。勝手に約束されただけ。女子会ってやつ、楽しみにしてたのに」
唇を尖らせて拗ねる。
ああ、そういうこと。
ていうか、楽しみにしていたのね。
それ聞いてなんか全部どうでもよくなったわ。
「……まあいいわ。これ一回きりじゃないし」
「え?」
「今度は正真正銘、女子会旅行よ」
これが最後の旅行ってわけでもないんだし。
そんなに落ち込まなくてもまた行きましょう。
「私さ、こうして誰かと旅行に行くの、初めてだから。正直、明日の温泉旅行、すごい楽しみなんだよね」
小さく笑みを浮かべている。
本当に楽しみなのね。
そんな風に素直になるくらいだから。
「今日は随分素直ね。気持ち悪い」
「気持ち悪いって……。人が素直になってんのに」
普段素直じゃない奴が素直になるとフラグみたいで怖いのよね。
「でも、そうやって素直な気持ちを口に出したほうがいいわよ。自分の気持ち。じゃないとどこかで変に捻じ曲がるから」
アンタの場合は特にね。
言わなくても伝わると思っているならそれは傲慢よ。
言わなくてもいい事は世の中にたくさんあるかもしれないけど、本当に言わなくちゃいけないことを言わなかったら、伝わるもんも伝わらない。
「………体験談?」
私は何も答えなかった。
それは無言の肯定。