第16章 野球
「アンタみたいに、私も素直になれればいいんだけれどね」
「クソ生意気だって定評があるぞ、私」
「性格が歪んでるからね」
「その言葉そのまま返すわ」
「じゃあそれをバットで返すわね」
「返すな!!」
なにこのやり取り。
コントやってるんじゃないんだけど。
「……アンタみたいに、好きだとかなんとかって素直になれればって思っただけよ」
テーブルに肘をついて掌に顎を乗せる。
なんでこんな事夏油に言わなくちゃいけないのよ。
こっぱずかしい。
こんなキャラじゃないのに。
そう思っていたら、夏油が眉間に皺を寄せて私を見ていた。
不細工な顔。
女のする顔じゃないわね。
「オマエさぁ、まじでそれ言ってんの?」
「何がよ」
「素直になれないって、マジか。マジで言ってんのか」
「だから何がよ!!」
「オマエが禪院真希のこと好きだって、知ってるわ」
「え……」
意外な言葉に私は素っ頓狂な声が出てしまった。
「嫌いだ嫌いだって言ってるけど、オマエはちゃんと禪院真希のことが好きだよ」
「なんで、そう言い切れるのよ」
「よく言うだろ。嫌よ嫌よも好きのうちって」
それって主に女性が男性に誘いを掛けられた時なんかに解釈する言葉でしょうが。
「あのね……」
「それにさ」
私の声を遮り、夏油は口を開く。