第16章 野球
「……なに泣いてんのよ」
「泣いてねえわ。心の汗だ」
「……へぇ。汚いから拭いたら?」
ポケットからティッシュを取り出し、彼女に渡す。
すると、思い切り鼻をかんだ。
泣いてんじゃないの。
真希なんて嫌い、大嫌い。
昔から不安なんてないみたいに、未来へズカズカ突き進んで。
私はそんなことできないのに。
私にできないことを真希は簡単に超えて行ってしまう。
双子なのに、どうしてこんなにも違うの。
真希が頑張れば頑張るほど私も頑張らなくちゃいけなくて。
それが私にとってどれだけ嫌な事か、真希は知っているの?
真希さえいてくれればよかったのに。
真希さえいてくれれば、あの家でコキ使われることも雑用ばかり押しつけられるのも耐えられた。
一緒に落ちぶれてくれればこんな思い、しなくて済んだのに。
ごめんって何よ……。
謝るくらいなら、繋いだ手を放すくらいなら、最初からそんな"約束"しないでよ……。
「……オマエも、泣いてんじゃん」
夏油の言葉に、私は自分が泣いていることに気が付いた。
頬を流れる温かい涙。