第16章 野球
「あげるわそれ」
「え、なんで?」
「あんたの服がダサいからよ‼少しはファッション雑誌でも見て勉強しなさいよ」
「………ダサくねえし」
頬を膨らまし、唇を尖らせる。
可愛くないわよ。
「お礼させろよ」
「はぁ?」
「服のお礼。借りっぱなしは性にあわないから」
先ほどと立場が逆転し、今度は私の腕が取られた。
ずんずんと歩いていく彼女の歩幅は少し狭い。
足が短いから仕方がないわね。
「おい、失礼なこと思ってんだろ」
「あら、声に出てたかしら。ごめんなさい。私嘘がつけない質なの」
「性根が腐ってるの間違いだろ」
お互いに悪態をつきながらも、彼女が連れてきた場所は落ち着いた雰囲気の喫茶店。
私服はダサいくせにこういうのに関してはお洒落なのが余計にムカつくわね。
「私のお気に入りの場所」
「ふぅん……」
悪くない雰囲気。
レトロモダンな造りにクラシックの音楽がマッチして居心地がいい。
「ちなみに、オマエがはじめて」
「なにが」
「ここに連れてきたやつ」
「………」
何でそれ今言った。
アンタに対しても虎杖に対しても嫌な事しか言っていないのに。
嫌われてもおかしくないと思っていたし、嫌われたところでどうも思わないけど。
お気に入りだと言う場所に、私を一番に連れてくるだなんて。
ちょっと嬉しいじゃない。
「私のオススメはドリップコーヒー」
「コーヒーねぇ……」
「香りがよくて、口ン中に甘味が広がんだよ。のどごしもすげえいいし」
「……じゃあ、コーラで」
「なんでだよ!!!」
「嘘よ。コーヒーにするからヒスを起こさないでよね」
おちょくればおちょくる程面白い反応をしてくれる。
クスクスと笑えば、夏油も呆れながらも笑った。