第16章 野球
――夜蛾正道side――
昨日の事件もあり交流会は中止になるかと思われた。
だが、悟がそれを決めるのは我々ではなくあくまで生徒だと言い張り、その意向を聞けば生徒たちは交流会を続けるべきだと決断した。
個人戦の勝負方法を入れた箱から虎杖が一枚紙を取り出す。
そこには「野球」と書かれていた。
どこからどう見ても個人戦ではない。
というかこれ団体戦だろ。
…………悟だな。
大きなため息を吐いた。
今更やり直しをするつもりもないだろうし、このまま野球をする事に。
というのも、歌姫と夏油がやる気満々だったために、「やらない」という選択肢が消えただけだ。
夏油が野球オタクだとは知らなかった。
それぞれのポジションや打順などを手際よく決める姿が、監督に見えて仕方ない。
それを横目に、私は楽厳寺学長と一緒に外へと行き用意していたベンチへと腰かけた。
楽しそうに野球をする生徒たちの声を聞きながら、難しい顔をしている学長に声を掛ける。
「……まだ、虎杖が嫌いですか」
虎杖だけじゃない。
学厳寺学長は夏油のことも嫌いだろう。
それでも虎杖ほどの危険性はないと思っているからなのか、処刑の優先順位は虎杖の方が上だ。
「好き嫌いの問題ではない。呪術規定に基づけば虎杖は存在すら許されん。彼奴が生きているのは五条の我儘。個のために集団の規則を歪めてはならんのだ。何より虎杖が生きていることでその他大勢がしぬかもしれん」
学長の行ってることは正しい。
一人のために規則を破る意味などない。
「だが、彼のおかげで救われた命もある。現に今回、東堂と協力し特級を退けた」
特級相手にあれ程だけの被害で済んだのは素直に褒めてやるべきだ。
そうでなければ被害はもっと大きいはずなのだから。