第16章 野球
「お前は幸せ者だね。傑にだってこんな事しなかったんだから、僕は」
しなかったんじゃなくて、できなかったんだろ。
手を差し伸べる頃にはお兄ちゃんはもう堕ちるところまで堕ちて手遅れだったんだろ。
「……最強だとか特別だとか才能があるだとか。この界隈はそういう世界だけどさ。そういうくだらないもので線引きなんてするなよ。悠仁を一人ぼっちにさせないでね。自分自身を独りぼっちにしないでね」
優しいけど、どこか寂しそうな声色。
こいつはずっと最強だと言われ続けてきた。
勝手に線引きをされて、ずっと壁を作られて。
一人ぼっちで寂しい思いをしていたのだろうか。
「……オマエは、どうなんだよ」
「僕?」
「一人で、寂しかったか……?」
「寂しいわけないでしょ。みんなが……#NAME!#がいるんだから」
そう言って、五条悟は私の頭に置いていた手をゆっくりとおでこへと滑らせ、前髪をかき上げた。
露わになる額に、五条悟の唇が落とされ、その熱にきゅっと瞼を閉じた。
心臓が痛いくらいに脈打って、うるさい。
離れていく熱に寂しさを覚えながらも。
その思いに。熱さに。気持ちに。
知らないふりをした。
「今日はゆっくり休むんだよ」
離れていく背中に手を伸ばし、静かに下ろした。
違う、この感情は、違う。
慰められて、そうなっただけだ。
だから勘違いするんじゃない。
そう言い聞かせて。
私は再び布団を頭から被った。