第16章 野球
私の吐き出す言葉を彼らは待っている。
でも私はそれをしてもいいのだろうか。
大切な友人の事を悪く言いたくない。
だって、大切だから。
大好きだから。
初めてこんな感情を抱いた。
大好きなのに、口に出したら大好きって気持ちが黒く淀んでしまう気がする。
そんな私を見かねた二人は、くそどうでもいい世間話をし始めた。
この間観た映画がどうのこうのとか、新宿にできた新しいパンケーキ屋が気になるだとか、夜蛾がまた新しい呪骸を作っただとか、本当にくだらない話。
ずっとそれを側で聞いていたものだから。
気が緩んでしまって、緊張感が解けてしまって。
「………虎杖が、ムカつく」
と、気づいたら呟いてた。
小さな、本当に小さな声だったのに。
二人はぴたりと会話をやめて私の声に耳を傾ける。
「……つい最近まで一般人だったくせに。あんなに強くなって。私の方が少しばかり付き合い長いのに、東堂ばかり頼りやがって。ムカつく。伏黒だって、すぐに奥の手使おうとするし。自分は死に急ぐくせに、虎杖とかには死んだら殺すとか言って。意味わかんない、ムカつく。野薔薇だって、親友でもいいよとか言うし。でもってなんだよ、こちとらずっと前からそう思ってたわ、ボケが。ムカつく」
一度吐き出したら止まらなくなった。
みんなの愚痴をずっと零し続けた。
ムカつくところを全部吐き出して吐き出して。
これ以上ないってくらい悪態をついて。