第16章 野球
「はぁ~。なるほどね。だからそんなに落ち込んでるんだ」
やけに明るい声と笑い声。
何がおかしいんだよ。
こっちは必死に悩んで苦しんでるってのに。
「の術式のことだけどさ、まぁこれは後ででいいや。今はお前の気持ちを全部聞かせて」
「……は?」
「今みたいに全部吐き出しなよ。汚いところも醜いところも全部、僕と硝子が聞いてあげる。受け止めてあげる」
頬を伝う涙を五条悟は親指の腹で拭った。
「見える怪我だの傷だのは治せるけどね、心までは治せない。でも、軽くすることはできるんだよ。あいつもそれをすればよかったのに」
呆れたように大きくため息を吐く家入硝子。
「夏油は自分のこと子供じゃないって思ってるかもしれないけど、そう言うところ兄妹そっくりだよ。私らから言わせれば。誰にも理解されないとか、どうせ自分なんてとか、そうやって拗ねて腐るのは子供だろって話。拗ねて腐るくらいなら吐き出しなよ。オマエをあっちに行かせないための荒治療だ」
足を組んで家入硝子がそう言った。
ああ、だからこいつらが来たのか。
お兄ちゃんとずっと一緒にいたこいつらが。
今の私があの時のお兄ちゃんと重なって見えるのだろう。