第15章 交流
「それはないよ」
「どうしてそう言い切れるのよ」
「矛盾してるから」
「は?」
首を傾げる歌姫。
考えてみればわかることだ。
「内通者がいると高専にばれた時、真っ先に疑われるのはだ。上の連中はすぐに彼女を死刑にするでしょ。それを解っていながら、繋がるメリットはどこにもないよ」
「でも……」
「それに、先日は向こう側の連中に大怪我を負わせられている。死ぬかもしれないリスクを取る必要ある?そこまでして僕を殺したいってのもあるかもしれないけど、あいつはそんな小癪な真似はしない。僕を殺すなら自分の実力で殺しにくるよ」
をずっと見てきた僕だからわかる。
それに、あいつも歌姫と同じで真面目な人間だしそんな度胸はない。
何より入学時学長に「兄と同じ道には堕ちない」と言っていた。
その信念を僕は信じよう。
「あんたがそこまで言うならそうなんでしょうね」
歌姫は軽く息を吐いて、空になった湯呑をテーブルに置いた。
「随分気に入ってるのね、あの子のこと」
「当然。僕の可愛い生徒だからね。もちろん悠仁や恵、野薔薇、2年の連中も気に入ってるよ」
「そういう意味じゃないわよ」
「……どういう意味?」
「わかってるくせに。誤魔化してるのはなんのため?」
「………」
「まぁ、教師と生徒っていう立場じゃそうもなるわよね。でも意外。あんたがそうやって"遠慮"してるの。あの子があいつの妹だから……ってだけじゃないんじゃない?」
「何を言ってんのかさっぱりだ」
「……せいぜいそうやって知らぬ存ぜぬを貫き通せばいいわ。アンタらしくないアンタを見てたら喉乾いちゃった。お茶持って来よう」
そう言って歌姫は席を立った。
一人残された僕は、少し冷めたお茶を飲み込む。
僕らしくない、か……。
そんなの僕が一番わかってんだよ。
わかってるけど、どうしたらいいのかがわからない。
こんな気持ちを抱いたのは初めてだから。
どう対処すればいいのか。
「あー……くそっ!!」
臆病な僕の歪な心の最深部の叫びは、誰にも届くことはない。