第14章 明日
「どうしたら泣いてくれるの?」
「なんでそんなに私を泣かせたいんだよ」
「……笑ってほしいんだよ」
右手に触れていた手が、ゆっくりと私の頬に触れた。
そしてゆっくりと私を近づく男の体。
ふわりと香る五条悟の匂いに、筋肉質な身体に、温もりに。
私の体は包まれる。
「笑ってよ、。心から笑えるようになんとかするのも教師の務めなら、そうするよ。でも、これはただの僕の我儘。僕はね、の笑った顔が見たいんだ」
「……なんだよ、それ……っ、」
笑いが込み上げてくると同時に。
目が熱くなった。
鼻もツンとするし、声だって震えた。
私を包んでいた大きな体はゆっくりと離れて行って。
冷めていく熱に、堪えていたはずの何かが爆発した。
横になっているせいで、涙は目じりからこめかみへと流れ耳を濡らす。
泣いてる顔を見られたくなくて左腕で隠せばそれを許さないと言わんばかりにその手を取られた。
「ふっ、う……ぐ、」
唇を噛んで。
声が漏れないように。
静かに泣いた。
あの時。
私を抱きしめて泣き続けた虎杖と同じように。
私も声を押し殺して。
もう一度私の体を抱きしめる五条悟。
訪れた優しさに、涙は一向に止まる気配を見せない。
男の肩を濡らす私の涙と鼻水。
だけど嫌な顔を一つしない男は、私が泣き止むまでずっとそうしてくれた。