第14章 明日
幾つかある死体安置所。
その一つに歩いていくと、中から声が聞こえた。
虎杖と七海だ。
入るタイミングを見失ってしまった私は入り口の側で、壁に背中を預けた。
「命を助けてもらった相手に説教もクソも無いでしょう」
あの後、何があったのか私は知らない。
だから虎杖が七海の命を救ったとという事に驚いたけど、それほどまでの死闘があったのだろう。
でも、七海が死ななくてよかった。
虎杖が居てくれてよかった。
七海は言った。
継ぎ接ぎ野郎の術式は他人の魂に干渉するもの。
虎杖が継ぎ接ぎ野郎の領域に侵入したことで宿儺の逆鱗に触れ、七海は助かった。
何一つその時の状況が理解できない。
まず、あいつは領域展開を会得したのか。
会得する時間があまりにも早くないか。
しかもその領域内に七海はいて、虎杖は領域内に侵入したと言っていたけど、どうやって侵入したんだ。
あとで詳しく聞こう。
その方が早い。
ゴチャゴチャと頭で考えていた思考を振りほどき、彼らの会話に集中する。
「……ナナミン、俺は今日人を殺したよ」
その言葉に。
私の心臓は大きく跳ねた。
あの、3体の異形を虎杖は殺した。
その事実に、少しだけショックを受けてしまったのはなぜか。
「人は死ぬ。それは仕方ない。ならせめて正しく死んでほしい。そう、思ってたんだ。だから引き金を引かせないことばかり考えてた。……夏油が、順平を殺した時、心底ムカついた」
私の胸倉を掴んだ虎杖の瞳が脳裏に蘇った。
怒りと憎しみと悲しみが混じったその瞳に、私はただ謝ることしかできなかった。
「夏油が、人を殺すなんて思わなかった。ショックだった。そういう奴じゃないっていうレッテルを勝手に張って勝手に落ち込んだ」
同じだよ、虎杖。
私も勝手にお前にそういうレッテルを貼ってた。
おまえはいい奴だから、人は絶対に殺さないって思ってた。