第11章 試行
「嫌じゃない、嫌じゃないけど。私はお前のことそう言う風にみたことがない」
「うん」
「お前の気持ちは嬉しいけど、私は私の気持ちにまだ答えが出せない。だから―――……」
「いいよ。そんな気はしてたし。でも、俺は夏油が好き」
「うん」
「夏油が俺を好きになってくれるように、気張る」
「ふはっ、気張んのかよ。気合いれすぎじゃね?」
「そんくらいしないと絶対夏油振り向いてくんないじゃん」
ついさっき抱きしめられてキスをしたと言うのに。
私たちの間はいつもと変わらない雰囲気が漂っている。
こいつのこういうところが好きなんだよな。
変に気遣わないというか。
他の女でもこんな感じなのかな。
知らないけど。
「夏油」
「ん?」
「もう一回、キスしていい?」
「キス覚えたての中学生かよ」
「うっ……」
「私とキスしたかったら、振り向かせて見せろよ。そしたら何度でもキスしてやる」
「言質取ったからな」
「必死かよ。ウケんだけど」
ケラケラ笑って。
さっきまでのドロドロに渦巻いていた感情はどこかに消えた。
うん、やっぱりこいつの隣は安心する。
「虎杖」
「なに?」
「ちゃんと、返事は返す。だからちょっとだけ待ってろ」
そう言えば、虎杖は満面の笑みを浮かべて「応!」と答えた。
その後、少しだけ虎杖とくだらない話をして私は寮の部屋へと戻った。