第10章 人形
背もたれに身体を預け、深く息を吸う。
殺したい程憎い男の言葉を私は受け止める。
きっとこれがこの男なりの優しさで心配の仕方なのかもしれないと思ったから。
「」
窓の向こう側の景色に目を向けていた私だったが、再び名前を呼ばれ振り向く。
ゆっくりと男の顔が近づき、私の唇に男の唇が触れた。
驚いて離れようとしたが、頬を両手で包まれ逃げ道を奪われる。
触れるだけの長いキス。
息ができなくて口を開けば、熱く柔らかいものが侵入し、私の舌が絡めとられた。
一回、二回と続くその絡みに、気持ちよさに、声が出そうになる。
必死に声が出ないようにと男の袖を掴み、我慢する。
それでもどうしたって小さく声は漏れてしまう。
「……っ、はぁ……」
やっと解放された頃には、私の目には生理的な涙が溜まり、それを五条悟は舌で舐めとった。
「帰ったら、続きをしようか」
リップ音と共に離れる熱。
惚ける脳を無理矢理叱咤し、私は手の甲で唇を拭った。
「するわけ、ねえだろ」
「残念。その気になったらいつでも声かけてね」
「かけるわかねえだろうが。この淫乱変態教師が」
「じゃあは、変態ドスケベドМJKだね」
「オマエ、帰ったら覚えとけよ」
「え、なになに。早速のお誘い?やだ、ってば。やっぱりそういう気あんじゃん」
「ぶっ殺すって言ってんだよ!!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ私たちは車掌さんに注意を受け、その後は東京駅に着くまで大人しく小さな声で、売り言葉に買い言葉を続けていた。