第10章 人形
会話は一度途切れ、夏の風が二人を包む。
どう、話を切り出そうか。
どう、彼女を祓おうか。
そんな事ばかり考えていると、彼女が静かに口を開ける。
「……私、貴女の事を知っている気がするんです」
「君が知っているのは私と同じ力を持った人だよ」
「……おじいちゃん?」
疑問符がついてはいるが、昔の記憶が少し残っているのだろう。
たどたどしくはあるが、彼女は少しずつ自分の事を話してくれた。
「両親が交通事故に遭って、おじいちゃんの家に引き取られたってお父さんから聞いたんです」
お父さん、とは西崎家の方の事を言っているのか。
「でも、そのおじちゃんとも私は血が繋がっていないって教えてくれて、私は捨て子でおじいちゃんに拾われたんだろうって。どうりで家族っていうものの記憶が無いんだなって思いました」
手遊びをしながら静かに。
彼女は自分の事を淡々と話す。
「名前は美優。14歳。私の名前を呼んでくれる人がいて、それが嬉しくて幸せだった。それだけはすごく覚えているんです」
わかる、気がする。
その気持ち。
私もお兄ちゃんに名前を呼ばれるだけで嬉しかった。
幸せだった。
もう、名前を呼んでくれることも頭を撫でてくれることもないけど。
ぎゅっと心臓が痛くなる。
この子に同情するな。
しちゃ、だめだ……。