第10章 人形
五条悟は甘党の癖に人に対しては甘くはない。
それどころか手厳しいしこうやってたまに正論を吐いてくる。
言い返せない。
言い返せるはずもない。
だって正論なんだから。
自分の甘さを五条悟に指摘され悔しさが溢れる。
ぎゅっと拳を握りしめ奥歯を噛んだ。
そして震える唇を何とか抑える。
「……やる、よ。これは私が任された任務、だから」
≪そう。僕は明日東京に戻るけど、困ったらいつでも電話してきていいからね。手助けはしないけど≫
「……………………」
長い長い沈黙の後、私は静かに電話を切る。
そうか。
あいつは東京に戻るのか。
それは私を信頼してるから帰るのか、それとも私を見切って帰るのか。
もしここで私が何かへまをして死んでしまったら、あいつはどう思うんだろう。
どうも、思わないか。
いつ死んでもおかしくない世界だ。
死んだ奴をたくさん見てきただろうし、あいつ自身親友を殺したんだ。
気にすることなんてあまりないのかもしれない。
「………頑張れ、私」
小さく零す私へのエール。
私が呪術師になるのは五条悟を殺すため。
そして私自身も死ぬため。
私みたいな復讐心にまみれたクソみたいな人間をもう二度と生み出さないために。
だったら、呪いを祓うしかない。
呪いを祓って、皆が笑って幸せに暮らせる世界に。
自分の都合のいいところだけを見て、それで済まされていいわけがないんだ。
少年院で逃げた私を私は未だに許せない。
そして今も逃げようとした。
馬鹿か。
同じことは繰り返さないって言ったのは自分だろ。
……逃げてたまるかよ。