第10章 人形
でも実際はどうだ。
西崎美優そのものを呪い、それに魂を宿すだなんて。
まさか自分の憶測が当たるだなんて。
でもさ、そんなこと傀儡術師と言えどできうることなのか。
≪おそらく成功例は彼女ただ一人でしょう≫
夜蛾でさえも人間に魂を宿すことなどしなかった。
やろうと思えば夜蛾もできたのかもしれないけれど、それをすることは禁忌だということをあいつはわかっていたから、やらなかったんだ。
パンダがどんなふうにして出来上がったのかなんて知らないけど、それでも夜蛾でさえぬいぐるみでしかそれをしなかった。
のに、人間にだなんておかしいだろ……。
何より、死者を蘇らせるだなんて、この世の理に対しての冒涜だ。
西崎美優は"元人間"だ。
人間と同じ人の心を持った人型の呪骸は、呪骸と言えるのかそれとも人間と言うべきか。
「………っ」
≪夏油さん。悪いことは言いません。他の術師に任せることをオススメします≫
確かにこれは私にはきつい。
今でだって揺れ動いているんだから。
私に西崎美優を祓うことはできないかもしれない。
でも、いまここでそうしてしまったら、私はあの時のまま何も変わらない。
「……やります。やってみせます」
≪でも……≫
「心配してくれてありがとうございます。でも、私がやらなくちゃ。私だって呪術師なんですから」
理不尽なことから逃げて、嫌な事から目を背けて。
それで呪術師が務まるわけがないんだ。
私は大きく息を吸って、伊地知さんにお礼を言った。
まだ何か言いたそうだったけど、伊地知さんは私の気持ちを汲み取ってくれてそれ以上は何も言わなかった。
伊地知さんとの電話を切って、私はじっと一点を見つめる。
どうしよう。
やるって言ってしまったけど、本当にできるのだろうか。
呪いの子ですら躊躇してしまったのに。
人の形をした呪骸を私は………。