第10章 人形
≪西崎美優はその呪詛師の元で10年間共に暮らしていたようです≫
「そしてその呪詛師が死んで、今の西崎家にってことですよね」
≪はい。夏油さん、ここでおかしなことに気づきませんか≫
「おかしなこと……?」
≪いくら家出をしたからと言って、捜索願をだして見つからなかったとは言え、何故10年間も彼女の事を隠し続けることができたのか、なぜ西崎美優にはあやふやな記憶しかないのか≫
言われてみれば確かに……。
虐待をしていた女の子が逃げ出せば、周りの大人たちは気づくだろうし、警察だってくまなく探すはず。
見つからなかったらそれこそ事件になるはずなのに。
10年間隠し通せた理由。
西崎美優の記憶の曖昧さ。
≪夏油さん。私は先ほど西崎美優は北海道で生まれたと言いましたが生年月日は伝えていませんでしたね≫
「は、はい……」
≪西崎美優、旧名佐々岡美優の生年月日は昭和49年9月4日。当時14歳だった佐々岡美優は10月18日から登校していません≫
「は……?」
言葉を失ってしまった。
昭和49年生まれ?
家出したとき14歳?
だって今14歳じゃん。
呪詛師と一緒に10年間暮らして………。
「……呪骸って、まさか……」
≪そうです。西崎美優の死骸に、魂を宿したんです≫
私はずっと西崎美優は"人形"だと思っていた。
それこそマネキンのような、パンダのような。
内側に呪いを宿し、心臓となる核があるからこその呪骸なのに。
死骸を使っているかもしれないと思っていたけど、それはただの憶測だったし、可能性的な事を考えたらそんなわけがないと思っていた。