第10章 人形
そして伊地知さんは西崎美優のことについて話してくれた。
≪西崎美優……旧名佐々岡美優。彼女は北海道の小さな町の5人兄弟の末っ子として生まれました。そこはあまり裕福ではない家でして、西崎美優さんは酷い虐待を受けていたみたいです≫
運動も勉強も並みの成績だったらしい西崎美優は、他の兄弟からからかわれ馬鹿にされ、両親からは出来損ないだと暴力と罵倒を浴びせられていたと言う。
その辛さから家出をした西崎美優は森の中に身を潜めていたと言う。
「虐待?森の中?西崎美優の両親は交通事故で亡くなって、だから今の西崎家に養女として引き取られたって聞いたけど……」
≪………西崎家の前に一度預けられた先があり、その人が亡くなったために今の西崎家の子になりました≫
「……その預けられた先っていうのは……?」
何故だか、心臓が大きく脈を打っている。
嫌な予感しかしない。
≪……"死者の蘇生"を謳っていた呪詛師でしょう≫
「…………お兄ちゃんじゃ、ないですよね?」
≪はい。夏油傑の呪術はそういうものではありませんので、死者を蘇らせる力はありません≫
よかった。
もしかしたらお兄ちゃんが絡んでいるんじゃないかって思ってしまった。