第10章 人形
――夏油side――
西崎美優との接触後、私は公園から1時間程離れたホテルに泊まっていた。
シャワーを浴びてスマホを見れば伊地知さんから電話があって、折り返しの電話を掛ける。
2コール目で伊地知さんは出てくれた。
「すみません、シャワーを浴びてました」
一言詫びを入れれば、伊地知さんは気にしなくてもいいと言ってくれた。
逆に「お休みのところ申し訳ありません」と謝られてしまった。
「それで、西崎美優の事について何かわかりましたか」
そう切り出せば、伊地知さんはどことなく言いづらそうな声を出していた。
≪先に申し上げますが、この任務は一級術師または五条さんに引き渡すべきだと私は考えています≫
「なぜですか」
≪…………夏油さんの手に余ると、判断したためです≫
私の手に負えないとはどういうことだ。
西崎美優は呪骸。
人形に魂が宿っているだけの話し………ああ、そういうことか。
以前私が呪いを孕んだことを伊地知さんも知っているのか。
呪いそのものにすら愛情を抱いてしまった私だから、"人間の形をした人形"にも同情すると思ったのか。
「私は大丈夫です。同じ過ちは繰り返さない」
≪……そう、ですか≫
一瞬、何かを考えるような間があってその後伊地知さんは私に約束を持ち掛けてきた。
≪調べられた範囲のことしか話せませんが、もしこれを聞いて無理だと判断したら、すぐに他の術師の方に引き継ぐと言う約束を私としてください≫
「……わかりました」
それ程までに私にこの任務をしてほしくないという意思を感じる。
私のことを心配してくれているからなんだろうけど、私はもう二度と間違えない。