第10章 人形
「私がその頼みを聞くとでも?」
「だから頼んでるんだよ。呪術師にしろ、宿儺の器にしろ、犯罪者の妹にしろ……若人の、健やかな成長を願う大人として」
僕の言葉に七海は深い息を吐く。
何かを考えているのかもしれない。
七海は馬鹿みたいに真面目なところがあるから、僕のこういうところは苦手なんだろうけど、それでもこのことを頼める大人は七海しかいない。
「人の痛みが分かる大人に預けたいからね。オマエみたいに」
「……そんな甘ったるいことを言うために、わざわざ此処まで?」
「僕が甘党なの、知ってるだろ」
そう言って僕は、七海にグラスの片方を渡した。
甘く酸っぱい黄金のカクテル。
まるで青春を詰め込んだようなそんな味。
一気にグラスの中身を飲み干せば、僕と七海の対照的な声がバーに響いた。
もう一杯酒を頼んでいる時、僕のスマホが音を出して鳴った。
「はいはーい。GLGの五条せんせーでーす」
「酔っぱらってるんですか」
「まっさか。ノンアルで酔っぱらうわけないじゃん。七海は馬鹿なの?」
「……はぁ。常に酔っぱらいみたいな人、の間違いでしたね」
「おいコラ七海」
≪……私の話し聞いてるか?≫
七海の暴言に反応していたら電話の相手の相手をする事を忘れていた。
が僕に電話を掛けてきたって言う事は、つまりはそう言う事か。