第9章 領域
――五条悟side――
「夜蛾はまだかのぉ。老い先短い年寄りの時間は高くつくぞ」
ぼそりと呟く声が廊下まで聞こえた。
僕は扉を勢いよく開き、ジジイの前のテーブルを挟んだソファへと腰を下ろす。
「夜蛾学長はしばらく来ないよ。嘘のスケジュールを伝えてあるからね」
伊地知を脅して、だけど。
京都校の学長である楽厳寺のジジイを前にして僕は足を組む。
「その節はどーも」
「はて。その節とは」
顎に手を添えて軽く首を傾げる。
ジジイがやってもかわいくねえんだよ。
気色悪ぃな。
「とぼけるなよ、ジジイ。虎杖悠仁のことだ。保守派筆頭のアンタも一枚嚙んでんだろ」
少年院の事を知らねえわけじゃねえだろ。
もし知らねえってんならいい病院紹介してやるよ。
「やれやれ。最近の若者は。敬語もろくに使えんのか」
「ハナから敬う気がねーんだよ。最近の老人は守護がデカくて参るよ、ホント」
「ちょっと。これは問題行動ですよ。然るべき所に報告させてもらいますからね」
その時、部屋の隅に立っている水色の変な前髪をした女が僕にそう言ってきた。
京都校の生徒か。
「ご自由に。こっちも長話する気はないよ」
どうせ報告したところで何もできやしないんだから。
何もできやしないくせに口だけは一丁前だから嫌いなんだよ。