第9章 領域
どうやって間合いを詰めて女をぶん殴ろうかと考えていると、巨体の男は的を伏黒へと絞った。
「伏黒……とか言ったか」
戦闘態勢に入る私たち。
男が次に何を言うのか、何をするのか、全神経を集中させたとき。
男はゆっくりと口を開いた。
「どんな女がタイプだ」
空気が止まった。
目の前の男が何を言っているのか一瞬理解できなかった。
「返答次第では今ココで半殺しにして乙骨……最低でも三年は交流会に引っ張り出す」
男は着ていた服をびりびりと破いた。
なぜ破く必要がある。
着てろよ。
「因みに俺は、タッパとケツがデカイ女がタイプです」
誰も聞いていないことを答える男。
自己中心がすぎないか、こいつ。
「なんで初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか」
「そうよ。ムッツリにはハードルが高いわよ」
「オマエは黙ってろ。ただでさえ意味わかんねー状況が、余計ややこしくなる」
これ以上話がややこしくなっても確かに困る。
いや、困るというよりは面倒くさい。
男の名前は東堂葵。
京都校の三年らしい。
自己紹介をしたからお友達だと言うこの男は相当イカレてやがる。
東堂は言った。
性癖にはソイツの全てが反映される。
女の趣味がつまらない奴はソイツ自身もつまらないと。
東堂はつまらない男が嫌いだと言う。