第9章 領域
――夏油side――
日中は2年の奴らと稽古という名の体術訓練をして、夜は虎杖と映画鑑賞という名の精神訓練に慣れしたんで来た頃。
それなりに私は純粋に映画を楽しんでいた。
この日もコーラを飲みながらポップコーンを頬張って映画を虎杖と見ていた。
隣に座る虎杖は今まさにツカモトに殴られている最中だ。
飲んでいたコーラが鼻に入ったらしく咽ている。
「コーラ飲んでるときはやめろや!!」
「「飲むなよ」」
私と五条悟の声が重なる。
五条悟は虎杖と私の修行を見てくれている、いわば監督のようなもの。
時間さえあればこうして様子を見に来ている。
そして一本映画を観終終わったころ、五条悟は用事があると言って部屋を出ていく。
部屋を出る前に、男は虎杖に尋ねた。
宿儺と何か話をしたか、と。
「話……」
「心臓を治すにあたって条件とか契約を持ちかけられなかった?」
「あー……、なんか話した気がするけど。思い出せねぇんだよな」
少しだけ俯いて、虎杖は静かにそう言った。
話はしたけど、思い出せない。
何か引っかかりはしたけど、虎杖が何も覚えていないために、それ以上詮索はできない。
だけど、これだけは言える。
宿儺と虎杖はなんらかの契約を交わした。
それは間違いない。
その契約がどんな内容なのかは知らないけれど。
厄介な契約を交わしていなければいいが、相手は宿儺だ。
私は五条悟を見た。
男もまた何か思うところがあるような表情をしていたが、考えても無駄と判断したのか、私たちに手を振って部屋を出て行った。