第8章 修行
――夏油side――
寝室の扉を開けば、五条悟は寝ていた。
私が風呂に入っている間にシーツやらなんやらを変えて疲れたのか、日頃の仕事のストレスなのかわからないが、随分と深い眠りについている。
このまま部屋を出て高専まで歩いてもよかった。
でも私はそうしなかった。
こいつの弱さを知ってしまったから。
呪術師最強だなんて、言われているけど。
本当に強い奴が、寝ている間に涙を流すものか。
ベッドにそっと近づき、片膝を乗せる。
ぎしっとスプリングが音を立てたが、男が起きる気配はない。
その目じりに溜まる涙をそっと拭った。
「馬鹿だな、お前は」
小さく漏れた言葉は静かな部屋に吸い込まれていく。
あの時。
私が熱で寝込んだ時。
こいつは言ったんだ。
【"俺"はな、自分の過去を後悔するつもりもお前に懺悔するつもりもない】
どこがだよ。
後悔、してんじゃねえのかよ。
懺悔するつもりないなら、なんでこんなに私に構うんだ。
呪術師として育てているんだ。
間違った道を、兄と同じ道を行かないように心配してのことじゃないのか。
「嘘つき」
この男が嫌いだ。
大嫌いだ。
無駄に整った顔してるし、身長高いし。
四捨五入したらもはや全部脚なんじゃないかって思うくらい脚長いし。
人の話聞かないし、そのくせ自分の話聞かないと拗ねるし子供だし、○か×かって聞いたら「✓」で返して来るし。
御三家の事とか知らないけど、苦しんでた時もあったって家入硝子が言っていたのを聞いて、こいつでも苦しむことがあるのかって思って、なんかムカついた。