第7章 じゅじゅさんぽ【Vol.2】
――Other side――
やるべきことを果たすために、伏黒はある場所へと来ていた。
団地の一室。
伏黒の目の前には一人の女性が立っている。
少年院で息子の安否を心配していたあの女性である。
「自分たちが現場に着いた時には、既に息子さんは亡くなっていました」
静かに伏黒の言葉を聞く女性の顔は、そうではないかとわかっているような、そんな表情だった。
伏黒は自分の考えていた事を彼女に話す。
話す必要などどこにもないのに、話したのは友人は自分とは違う思考の持ち主であり、それを告げぬままただ謝罪だけを述べるのは亡くなった友人に対しても失礼だと思ったからだ。
俺はあそこにいた人達を助けることに懐疑的だった。
だけど虎杖は、釘崎は、違った。
助けることはできなかった。
できなかったけど。
生死を確認した後もあいつらは、あいつは、遺体を持ち帰ろうとした。
逃げろ、と虎杖に言われ。
その場を逃げた伏黒は、咄嗟に目の端に映った岡崎正の名前が書かれた名札を引きちぎった。
遺体は、生得領域と共に消滅してしまった。
だが名札だけはこうして彼女の、母親の手元へと戻ってこれた。