第5章 特級
「伏黒。てめえは手を出すな。"ソレ"は出しちゃいけねえやつだろうが」
『貴様が相手か。まぁいい。魅せてみろ、夏油。貴様の領域展開とやらを』
すうっと息を吸った。
そして領域を展開しようとしたとき、伏黒に肩を掴まれた。
伏黒の視線の先には宿儺がいる。
だけど、その顔の文様は少しづつ薄くなっていく。
「俺は、オマエを助けた理由に論理的な思考を持ち合わせていない。危険だとしてもオマエの様な善人が死ぬのを見たくなかった。それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論。でも、それでいいんだ」
伏黒が何を言っているのかわからなかった。
虎杖を救ったとかどうとか。
きっとこいつが仙台に言った時に何かあって何か話をしたんだろうな。
詳しい事は知らないから、憶測でしか言えないけど。
「俺は正義の味方じゃない。呪術師なんだ。だからオマエを助けたことを、一度だって後悔したことはない」
「……そっか」
文様のなくなった虎杖は八の字に眉を寄せて笑った。
「伏黒は頭がいいからな。俺より色々考えてんだろ。オマエの真実は正しいと思う。でも俺が間違ってるとも思わん」
そう言っている間にも、虎杖の胸からは大量に血がこぼれている。
心臓を治すことはできなかった。
だからそろそろお別れだ。
「伏黒も釘崎も夏油も、五条先生……は心配いらねぇか。長生きしろよ」
ゆっくりと地面に倒れる虎杖。
まるでスローモーションのようで。
「夏油、俺さ……」
その後に続く言葉は、雨の音で掻き消されて聞こえなかった。
ただ、降りしきる雨の音が、雫が、同級生の亡骸を冷たくするだけだった。
どしゃりと、その場に崩れる私は虎杖の死体を眺める事しかできずにいた。
その後、どうやって高専に戻ったかは覚えていない。
虎杖の笑った顔だけが、私の頭をよぎるだけだった。