第5章 特級
『さてと。晴れて自由の身だ。もう脅えていいぞ。殺す。特に理由はない』
「……あの時と立場が逆転したな」
「……………やるしか、ないのかよ」
ぎゅっと拳を握り、私は鍵を手にした。
伏黒は、たとえ死んだとしても虎杖は戻ってくると言う。
対して宿儺は、そんな度胸は虎杖には無いと言う。。
私は……わからない。
戻ってこようとこなかろうと。
虎杖は死ぬんだ。
宿儺は反転術式が使える。
ということは虎杖の心臓も治せる。
虎杖が戻る前に宿儺に心臓を治させることは可能か。
わからないけれど、やるしかないんだ。
特級相手に何もできなかった私だけど。
もう、置いて行かないでほしいから。
伏黒は、式神である鵺を出した。
私もまた鍵を握りなおす。
『折角外に出たんだ。広く使おう』
私も伏黒も同時に動いた。
私たちの攻撃をまるで赤子をあやすかのように簡単に受け流しては、隙をついて顔面や腹部へと打撃を加える。
さっきの特級なんかと比べ物にならないほど、私たちは宿儺の手の平で遊ばれていた。
「"破錠"!!」
宿儺の足元を崩し、畳みかけるように開錠で地面を抉る。
それでも宿儺に傷一つなんてつけることができずに、伏黒もまた式神の一つである「大蛇」が破壊された。
二人がかりでも手ごたえなど、感じない。
『言ったろう。広く使おう』
絶望に打ちひしがれる私たちの服の裾を掴むと宿儺は思い切り上空へと投げ飛ばした。
このままでは伏黒も死んでしまう。
呪術云々のはなしではなかった。
パワーもアジリティもなにもかもが、格段に違う。