第5章 特級
夏油傑。
五条さんの親友で私の先輩。
学生時代から彼らは最強で問題児でその頃からずっと胃が痛かった。
それでもあの人がいた時の五条さんはいつも楽しそうで、この人に匹敵しこの人を𠮟り導けるのはあの人が最適なのだろうとも思っていた。
そう思っていたのですが……。
あの時の五条さんの姿はあまりにも痛々しく見ていられなかった。
それでも多少なりとも昔よりはしっかりとした態度を見せたことで、この人もちゃんと成長したんだなとうかがえた。
まぁ、本当に微々たる成長ではあるけど。
そんな五条さんが最近は楽しそうなことに私は安心した。
夏油さんの妹、夏油リトさんが襲撃に来て以来、まるであの頃に戻ったような。
夏油さんの実力は高校1年とは思えないほど。
準一級という等級がそれを表している。
「……楽しいのなら、なによりです」
それ以外にかける言葉はない。
紛れもない私の本心。
「……さっき気遣ってるとか大切にしてるとか言ったけど」
「はい」
「嫌でもそうなると思わない?」
「へ?」
いつになく自分のことを話す五条さん。
あまり自分のことなどは話したがらない人なのに、珍しい。
……いや、これは言い聞かせているのか、自分に。
五条さん自身も信じられていないのかもしれない。
らしくない己の行動に。
その理由を探しているんだ。
「傑と同じ道なんて行かせたくないでしょ。あの時は未熟だったとは言え、今の僕は大人で教師だ。止める事なんて造作もない。なにより僕自身も間違えたくない」
「……そう、ですね」
後悔、悔恨、失敗、惰弱、未練。
様々な負の感情を抱いたからこその言葉。
夏油さんの未来を考えての発言何でしょうけど。
本当にそれだけ?
もっとほかに何かがあるように思えて仕方がない。
が、詮索するのは野暮というものだ。
私は、アクセルを少しだけ強く踏んだ。