第5章 特級
指定された場所へ車を走らせること数十分。
そこは私が来たことのない場所。
五条さんのご自宅とは反対の道ではあったが、何か言うとビンタをくらうので何も言わずに走らせたのはいいけど、五条さんもしかして新しく家を購入されました?
そんなことを考えていたら、五条さんは慣れた手つきで爆睡している夏油さんを抱き上げ車を降りる。
思わず引き留めてしまった。
「なに?」
「夏油さんをどちらへ……?」
「部屋で寝かせるだけだけど?」
「だったら高専まで送りますよ」
「寝てんじゃん」
「だからこそでしょう」
話しが噛み合わない。
ここで引き留めた私は何一つ間違っていないと思うんです。
だって、人としての倫理に反する事だから。
だというのに五条さんは私を睨みつけ、めんどくさそうな顔をした。
「別になにもしないよ」
「そう言うことを言っているのでは……」
「伊地知うるさい。これ以上言うとマジビンタ」
何かあるとすぐこれだ。
でもこの人のビンタはものすごく痛い。
歯が折れたんじゃないかと思うくらい。
一度だけ口から血を出した時があった事を思いだし、私はそれ以上は何も言わなかった。
すみません、夏油さん。
私は貴女を売りました。
どうかご無事で。
マンションへと消えていく背中を見送りながら、私は車を走らせた。
夏油さん、貴女は厄介な人に気に入られてしまいましたね。
同情します。