第5章 特級
文句を言おうにも疲れすぎてそれすらも億劫だった。
口を閉じて後部座席で大人しくすることにした。
別に一緒の車だったとしても会話をしなければいい。
のだけれど……。
「お疲れみたいだね」
「そう思うなら喋んな」
「ちゃんと寝てる?目の下の隈がすごいよ」
「今から寝んだよ。喋んなって」
「子守歌歌ってあげようか」
「だから喋んなって言ってんだろうが!!」
いちいち五条悟はうるさい。
寝たくてもこれだと寝れない。
伊地知さんの運転いつも丁寧だから高専に戻るまでの数分でも寝てるのに。
今日は寝れないな。
なんて思っていた数分前の自分どうした。
今、めっちゃ眠い。
うつらうつらしているのがわかる。
でもなんか、五条悟の前で寝るのが悔しくて意地張っている。
「寝たらいいじゃん」
「うるさい……。眠くねえし」
「目、すごいトロントロンしてるけど」
「……っるさい、てば……」
「着いたら起こすよ」
そう言って、五条悟は私の頭を大きな手で優しく撫でた。
五条悟は嫌いだ。
でも、五条悟のこの温もりは嫌いじゃない。
嫌いでなきゃいけないのに。
嫌いであってほしいのに。
心のどこかでそう思えない自分がいるのが嫌だ。
一体、どうしたっていうんだよ、私。
睡魔に勝てるはずもなく。
私は静かに瞼を閉じた。
五条悟の手の温もりに安心さを覚えて。
ずっとこの温もりに触れていたいと、そんな風に思って。