第3章 受胎
あの後、伏黒やパンダ、呪言師からもなぜか励まされた。
励まされたというか、気を遣われたと言うか。
それがムカついたから一発ずつ殴ってやった。
「てめえらに気を遣われるほど、もう落ち込んでねえし!!うっざ」
って悪態をついたら、一発ずつ殴られた。
逆に五条悟は何も言ってこなかった。
それが嬉しかった。
こっちも気を遣わなくて済んだから。
5月の半ば。
あの事件から少し経った頃。
私は五条悟とトランプでポーカーをしている。
「フルハウス」
五条は机の上にカードを並べる。
K2枚にAが3枚。
にやりと、五条悟の口元が歪んだ。
「残念だったな。ロイヤルストレートフラッシュだ」
「うっそー!!」
私はバンと机を叩いてカードを並べる。
10・J・Q・K・Aの5枚に全て同じマークがそこに現れた。
「マジ……?」
「すげ……」
「どうよ、五条悟!!これが私の実力だ」
わっはっはと声を上げて笑う。
ポーカーは昔から得意だったんだよ。
伏黒も驚いたように目を開いてる。
「しょうがない、僕の負けだからね」
深いため息を吐く五条悟。
そう、私は勝負に勝った。
この男を好きに殺せる。
それが本来の目的。
だけど、私は何もしなかった。
「お前には借りがあるからな。借りを残したまま殺せない。これで借りは返した。次は殺す」
「………」
「なんだよ」
「あはは!!って本当に甘いねぇ!!」
膝を叩いて爆笑する五条悟。
伏黒も笑ってるし。
何なんだよ。
「優しいね、お前は。もう僕を殺すチャンスなんてないかもよ」
「馬鹿言うなよ。あるわ、山ほど」
「くっくっくっ。いいね。そう来なくっちゃ」
「夏油、後で俺ともポーカーやろう」
「負けねえし」
「じゃあ先生も混ざろうかな」
「お前は任務に行けや」
授業そっちのけで騒ぐ私達の間に、五月の風が優しく吹いた。
少しだけ私の中で気持ちが変化していたけど、まだそのことに気づかないでいた。