第3章 受胎
――夏油side――
どのくらい泣いていたのか。
涙が枯れた私は虚無感を抱いたままベッドから降りた。
「大丈夫か?」
「……心配されるほど、弱くない」
「そうか。なら、いいけど」
私は静かに医務室を出た。
そこにはなぜか禪院真希が腕を組んで立っていた。
「弁慶かよ……」
「悪態つけるまでは回復したみてえだな。ちょっと来い」
手をひかれ、私は女の部屋に連れて行かれ適当に座らせられた。
数分後、目の前には湯気の立つココアの入ったマグカップを置かれた。
「なんの冗談?」
「先輩の優しさだ、受け取れ」
あんなみっともない姿を見せたあとだから、五条悟から何か聞かされているだろう。
「どこまで聞いた」
「全部」
「あっそ」
「馬鹿だな、お前は」
「ゴリラ女に言われたくない」
温かいココアを飲めば、空っぽになった体に染みわたる。
馬鹿だなんて言われなくても自分が一番わかってる。
呪霊に愛情を抱くなんて。
あほらしい。
それでも生きてほしいとは願わずにはいられなかった。
それだけの話だ。
「泣けばいいじゃねえか。気がすむまで」
「は?泣くわけないだろ。同情、した結果がこれなんだぞ。自業自得だわ」
「それが馬鹿だっつってんだよ。お前はさ、呆れるくらい優しいよ。あんな異形を愛せるなんて私なら無理だな」
「家入硝子にも言われた」
「それがお前のいいところなんだから、強がんねえで泣けばいいだろ」
「…………なんで、急に優しくすんだよ、てめえらは」
「泣き虫だな。抱きしめて慰めてやる」
「やめろ。抱きつぶされる」
「生意気だな、まじでよ!!」
禪院真希は無理やり私をその胸に閉じ込めた。
マジで力強すぎて抱き殺されるかと思った。
けど、禪院真希から聞こえる心臓の音が心地よくて、しばらくはこのままでもいいかなと、少しだけそう思った。