第3章 受胎
「夏油」
私は静かに彼女の名を呼ぶ。
枕から顔をあげはしないものの私の言葉は聞いてくれるようだった。
「"あの子"はちゃんとオマエからの愛情を貰っていたよ。それはオマエが一番わかっていると思う」
「………っ」
「だからこそ、辛いのかもしれないけど。でもあんな形になってまで愛してもらえたんだ。幸せだったと思うよ」
「そんなの、そう思いたいって言う押しつけだろ……」
「そうだね。愛情なんてもんはそういうもんさ。誰かの為のなにかなんて、結局は全部自分のために過ぎない。それでもそこに生まれる"なにか"は一人じゃ作れないし、誰かと一緒に作るものだと私は思ってる。君はちゃんとあの子を愛していた。あの子も君を愛していた。それだけは確かなことだよ。それだけはちゃんとわかってあげな」
じゃないと、それこそあの呪霊が報われない。
止まったはずの涙が、再び零れる。
ボダボダとシーツを濡らし声を出して泣き喚く。
今は気のすむまで泣けばいい。
そうやって人は強くなっていく。
夏油もさ、あの時泣けばよかったんじゃないかと思うよ。
この子を見てると。
呪霊操術の術者だからなのか、なんでもかんでも取り込んでは溜め込んでいた。
吐き出せばよかったのに。
そうしたら私と五条で全力でからかって全力で慰めたのに。
妹の方はそう言う意味では、器用な方なのかもしれない。
好きなだけ泣いてすっきりしな。
溜め込む必要なんてどこにもないんだから。
そう言って、私は夏油が泣き止むまでずっとそばにいた。