第3章 受胎
――家入硝子side――
ベッドの上で小さく丸まり、嗚咽を零し続ける夏油。
その姿を私はただ眺める事しかできなかった。
彼女の腹の中に宿った呪いを彼女は愛した。
それを五条は化物みたいだと評したけど、私には「母親」にしか見えなかった。
どんな姿だろうと我が子を愛するただの母親。
彼女の優しさなんだろうけど、まさかここまでとは思いもしなかった。
彼女の中にいる呪いを出すために、夏油の膣の中に指を入れた時、私は理解した。
触れた呪霊もまた夏油を愛していたのだと。
だからこそ、出ていくことを拒んだのだ。
だけどそんなことは許されない。
夏油を呪い殺す訳にはいかないから。
「ご、めん……なさ……っ」
謝り続ける夏油。
罪悪感に押しつぶされるのではないかと心配になる。
そっと夏油に近づき、小さな背中に手を添える。
びくりと跳ねるその身体は酷く震えていた。
「き、らいだ……やだって……言った……!!」
小さな子供のような我儘を口にする。
あの時、私の手を取って「やめて」と懇願した彼女を私は拒んだ。
そのことを言っているのだろう。
子供と言えどもう少しまともな言葉を吐くだろうに。
混乱している頭では、守るべき命を無理矢理引き剥がした目の前の女を憎むことで、ぐちゃぐちゃな感情をやり過ごそうとしている。
「きらい、だ……。ぜん、ぶぜんぶ……!!」
それでも一番憎んでいるのは夏油自身。
守ろうと思えば守れたはずだが、彼女は私の手からそれを取り、殺した。
しかたがない、と抗えない運命に身を委ねて。