第3章 受胎
こつり、と家入硝子の指に何かが当たる。
「これか」
まるで促すかのように優しく指を動かす。
その度に私は言葉にならない喘ぎを漏らした。
「や、やだぁ……。だしたく、ないっ……!!こわい、こわいぃ……」
「うん、怖いね。この子もまだ出たくないだろうね。でも、ごめんね」
「あ、あっ……ひぅ、」
涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。
家入硝子の指がコツコツと奥にいる何かを叩く。
そしてゆっくりと指を抜いた。
中の襞を移動し、それはずるりと出口に向かって蠢く。
無意識にいきんだ数秒後。
全身に今まで感じたことのない強い衝撃が襲い、身体が弛緩した。
…………出て行った、らしい。
たった数週間。
されど数週間。
短い期間だったけど、確かにこの腹に宿った生命。
人間の子供ではなく、呪霊の子供だけど、確かにこの中に命はあったんだ。
肩で息をし、力の入らない身体を無理やり起こした。
家入硝子の手の中には、卵のような球体が握られている。
涙で霞む視界で、家入硝子と目が合う。
その目は「どうする?」と訴えているようにも見えて、私は静かに手を伸ばす。