第26章 事変
必中の攻撃もなにもあったもんじゃない。
この異様な空気の中、私は思わず領域を解いてしまった。
それでも男は攻撃するどころか、その場から一歩も動かない。
「名前は?」
名前を言わない伏黒に男はもう一度訪ねる。
「……伏黒」
小さく名字だけ名乗った彼の顔を見つめたまま男は僅かに目を見開き、手に持っていた三節棍を自らのこめかみへと当てた。
「禪院じゃねぇのか」
そしてズブリ、と音を立て頭部へと突き刺した。
「よかったな」
先ほどまでの猟奇的な表情ではなく、どこか穏やかで安心したような表情。
その顔はどこか伏黒と似ていたような気がして。
自害した男に近づいて顔を見ると、その顔はババアの隣にいたあの孫の顔に変わっていた。
「顔が……変わってる」
「降霊術のババアの孫だよ、こいつ。誰を憑依したのか、名前は思い出せねえけど」
「………」
「……それより、聞きたいことあんだけどいいか?」
「その前に家入さんの所……いや、真希さん達の無事を確認しなきゃいけねえだろ」
「……そうだな」
脇腹を抑えて立ち上がる伏黒。
そうだ。
まずは伏黒の怪我の治療をしなければいけない。
どのくらいの傷の深さなのかは分からないが、致命傷ではないにしろ早く家入硝子の所に行かなければ。